
介護事業所の書類のサインをすべて電子化する

はじめに
近年、世間一般では電子サインが急速に普及し、企業や個人の間でも紙ベースの書類よりも効率的な選択肢として広く採用されています。しかし、介護事業所では依然として紙の書類と手書きサインが主流であり、電子化の進展が他業種に比べて遅れています。この背景には、法的な規制や業界特有の慎重な姿勢、または技術導入への抵抗感があると考えられます。
そこで本稿では、介護事業所における電子サイン導入の是非を検討し、そのメリットとデメリットを分析します。介護現場において、サインの電子化がどのような影響を与えるのか、また実際に導入した場合の課題と効果について考察してみます。
介護事業所における書類管理の現状
介護事業所で使用される書類は、利用者に関する契約書や職員の雇用契約書、同意書など多岐にわたります。これらのうち、サインが必要な書類は特に法的な効力を持つものや、利用者と職員の意思確認を求められるものが多いです。サインが不要な書類(報告書やメモなど)は紙保管は不要と解釈され、クラウドへの保存が徐々に進んでいますが、一方、サインが必要な書類は原本を保存する必要があるため、紙運用と署名(+捺印)により作成されて、台帳保管を行っているケースがほとんどです。
サインの電子化の必要性とメリット
サインを電子化することによって、事業所の書類管理は大幅に効率化されます。紙の書類を減らし、デジタルデータとして管理することで、検索や共有が容易になるほか、どこにいても内容を確認することができ、リモートワークできる環境が整います。また、物理的な保管スペース(キャビネットや倉庫)も節約でき、コスト削減が見込まれます。さらに、契約の事前準備の工数が激減し、出先で急に契約することになっても、問題なく契約を結べるメリットもあります。これは、特に介護業界の忙しい現場にとって大きな利点です。
サインが必要な書類の電子化に合わせて、より容易に実施できるサインが不要な書類のクラウド化も推進することで、業務に必要な書類がすべてクラウド上で生成・更新・確認・共有されることになることから、事業所へ寄って仕事をしたり、書類の作成・授受・格納のためだけに事業所へ行かなくてはならないことが激減します。事業所にキャビネットがなくなる日がやってくるのです。
電子サインの基礎知識
電子サインとは?
電子サインは、紙の書類に手書きのサインをする代わりに、デジタルデータとしてサインを行う方法です。署名者の意図を示すものであり、電子的に作成・送信・保存されます。これにより、書類の承認プロセスが効率化され、時間の節約が可能です。
法的効力と認知度
電子サインは、日本でも「電子署名法」により法的に有効とされています。適切な電子サインサービスを利用することで、従来の手書きサインと同様に法的効力を持ちます。多くの企業や業界で広まりつつあり、特に契約書や同意書などにおいて、法的に認められる形での運用が進んでいます。
主要な電子サインサービスの紹介
- 介護事業所における電子サイン導入の際には、各サービスの特徴や予算を把握することが重要です。以下に代表的な電子サインサービスを紹介し、それぞれのメリット・デメリットを簡潔にまとめます。また、リンクも記載するので、詳細は各公式サイトを参照ください。
DocuSign
- メリット:
- 法的に認められた高度なセキュリティ
- 国際的な標準に準拠しており、多様な業界での使用実績
- 他のシステムとの統合性が高く、カスタマイズ可能
- デメリット:
- 初期費用が高め($10~$40/月のサブスクリプション費用)
- 多機能だが、介護事業所には一部の機能が不要な場合も
- DocuSign 公式サイト
- メリット:
Adobe Sign
- メリット:
- Adobeの他製品との統合が可能で、ユーザーインターフェースが直感的
- モバイルでの利用も対応しており、現場の多様な状況に対応可能
- デメリット:
- 価格が比較的高額(¥1,580~¥3,580/月)
- 小規模事業所にとってはコストが課題になる可能性
- Adobe Sign 公式サイト
- メリット:
Shachihata Cloud
- メリット:
- 日本のシャチハタブランドが提供する、信頼性のあるサービス
- 介護現場の実務に合わせた簡単な操作性
- デメリット:
- 一部のカスタマイズ機能が限られている
- 介護業務に特化したサービスではないため、使い勝手に差が出ることも
- 費用: 月額1,000円~
- Shachihata Cloud 公式サイト
- メリット:
DottedSign
- メリット:
- 直感的なユーザーインターフェースで、誰でも簡単に操作可能
- 他のサービスに比べてリーズナブルな価格設定
- デメリット:
- 高度な機能は少なく、シンプルな用途に限定される
- 日本国内での普及率が低いため、利用者のサポート面に課題がある可能性
- 費用: 無料プランあり、有料版は$4.99/月~
- DottedSign 公式サイト
- メリット:
電子印鑑GMOサイン
- メリット:
- 日本の法律に準拠した信頼性の高い電子印鑑サービス
- 介護事業所向けの簡易プランも用意されており、スムーズな導入が可能
- デメリット:
- サポートは日本国内に限られるため、国際利用には向かない
- 費用: 無料プランあり、有料版は月額9,680円~
- 電子印鑑GMOサイン 公式サイト
- メリット:
ケアウイング
- メリット:
- 介護業務に特化したツールで、他の介護ソフトとの連携が可能
- 導入後のサポート体制も整っており、現場での操作負担が少ない
- デメリット:
- 汎用性が低く、介護業務以外のシナリオでは利用が制限される
- 費用: 要問い合わせ
- ケアウイング 公式サイト
- メリット:
ケアサイン
- メリット:
- 介護記録とサインの一体化が可能で、現場に特化したサービス
- シンプルな設計で、職員の負担を軽減できる
- デメリット:
- 一部の複雑な業務には対応しないため、業務内容によっては限界がある
- 費用: 要問い合わせ
- ケアサイン 公式サイト
- メリット:
Digisign
- メリット:
- グローバルスタンダードのセキュリティと柔軟なカスタマイズが可能
- 多言語対応で国際的な利用も視野に入れられる
- 視覚的に簡単なサイン欄等のインストールが可能
- デメリット:
- 利用者別のストレージなどを共有する機能は弱い
- 費用: 月額約¥2,000~
- Digisign 公式サイト
- メリット:
LightPDF
- メリット:
- 無料プランが充実しており、小規模事業所にも導入しやすい
- PDFの編集機能が強力で、サイン以外の作業も簡単に行える
- デメリット:
- 高度なセキュリティや管理機能には制限がある
- 費用: 無料プランあり、有料版は月額$4.99~
- LightPDF 公式サイト
- メリット:
これらのサービスを比較検討し、介護事業所の規模やニーズに合ったものを選定することが重要です。
介護事業所におけるサインが必要な書類の種類
利用者にサービス契約に関する書類
利用者との契約には、サインが不可欠です。例えば、介護サービス契約書や重要事項説明書、個人情報同意書など、利用者がサインすることで合意したことを証明する書類があります。
職員の契約書や同意書
職員に対しても、雇用契約書や個人情報使用の同意書、守秘義務の誓約書等、サインが必要です。これらも電子サインを導入することで、業務の効率化が期待されます。
電子化の導入プロセス
現状の書類管理フローの把握・効率化の効果算定
まずは、現在の書類管理の流れを可視化し、どこで電子化が可能か、どれほどの効率化が期待できるかを確認します。これには書類の種類や頻度、手書きサインの場面を洗い出すことが重要です。
法律の確認と行政ヒアリング
行政は、電子サインを有効な書類として認めているかどうか確認する必要があります。特に介護事業所の場合、厚生労働省や地方自治体の指導を仰ぐことが大切です。電子サインが法的に認められていない場面では、手書きサインが引き続き必要となることもあるため、注意が必要です。
必要なツールとシステムの選定
事業所に最適な電子サインツールを選定します。サインの用途、コスト、操作性、セキュリティレベルを考慮し、適切なものを選びましょう。
スタッフの教育とサポート
電子サインを導入する際には、スタッフに対する教育が必要です。新しいツールをスムーズに使いこなすためのトレーニングを提供し、業務に無理なく適応できる環境を整えましょう。
セキュリティ対策
電子データを扱うため、セキュリティ対策は必須です。データの暗号化やアクセス制御、バックアップシステムの構築を検討し、万が一の情報漏洩に備えた対策を講じる必要があります。
ファミーユでの検討状況
Digisign の試用を開始。まずは雇用関係書類から
ファミーユでは、最終的にはすべてのサインが必要な書類のサイン電子化を目標として、Digisignの試用を開始。手始めに雇用関係書類からサインの電子化を開始します。この運用によって仕組・プロセスを整備した後、利用者向けのサービス提供契約関係の書類に対してもサイン電子化に切替を行う予定です。進捗状況は本コラムでも追跡して紹介をしていきます。
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参考資料
関連リンクや文献
- 「保健医療福祉分野における電子署名等の環境整備 について」:厚生労働省

東北大学法学部卒業。アマゾン・ミスミグループなど国内外の人事マネジャーを歴任。人事制度・評価制度の構築の他、独学でITを習得し、多くの人事関連の業務効率化を主導。関連書籍も執筆。2021年からファミーユヘルパーサービス名北の管理者兼サービス提供責任者。